旅する写心 〜My Fathers Eyes

2008年「全米オープン」最終日
トップのロッコ・メディエイトは
1打差ですでにホールアウトしていた。
タイガー・ウッズはこの最終ホール
少なくともバーディか
3日目のようにイーグルを
決めなければいけなかった。

タイガーはカリフォルニアで育ち
ジュニアの頃から父と一緒に
このトーリーパインズをプレーした。

1月に行われるPGAツアーでは
7勝(この時点では6勝)と
とても相性の良いコース。
是非とも勝ちたい一戦だった。
しかしこの週は、ひざの状態が最悪
18番のティショットもフェードがかからず
左のフェアウェイバンカーに捕まった。

僕は一瞬、右から歩こうか左から歩こうか迷う。
長年の勘で何かが起きそうな気がしていた。
レイアップもミスショットで右ラフ。
残り100ヤード。ピン手前から攻めたいが
池もあり安全な右サイドに乗せるしかなかった。
ピン右上4m。簡単なラインではない。

全身の毛穴が開いたような、
自分が興奮しているのがわかった。
タイガーは難しい状況になればなるほど
成し遂げるタイプ。
「気を抜くな!!」と自分に言い聞かせ
全神経をカメラに集中した。

下りのフックライン
一瞬数万人のギャラリーがいることが
嘘のように静まり返った。
ボールを追うタイガーの目が全開だ。
その瞬間、聞いたことがないような雄叫びをあげた。

シャッターを押す
右手の人差し指に力が入る。
あぁ、あれから随分と月日が経った。
しかしあの興奮を忘れることはできない。
今週そのトーリーパインズで全米オープンだ。

Torrey Pines Golf Course
トーリーパインズゴルフコース

宮本 卓Taku Miyamoto

1957年、和歌山県生まれ。神奈川大学を経てアサヒゴルフ写真部入社。84年に独立し、フリーのゴルフカメラマンになる。87年より海外に活動の拠点を移し、メジャー大会取材だけでも100試合を数える。世界のゴルフ場の撮影にも力を入れており、2002年からPebble Beach Golf Links、2010年よりRiviera Country Club、2013年より我孫子ゴルフ倶楽部でそれぞれライセンス・フォトグラファーを務める。また、写真集に「美しきゴルフコースへの旅」「Dream of Riviera」、作家・伊集院静氏との共著で「夢のゴルフコースへ」シリーズ(小学館文庫)などがある。全米ゴルフ記者協会会員、世界ゴルフ殿堂選考委員。

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